7月27日(宇都宮→郡山)

 6時頃起床、今日のルートを地図で確認する。昨日はあまりにスピードが出なさすぎた。平均速度は10キロを割っている。これでは先が思いやられる。考えるに後ろの荷台の荷物が重すぎるようだ。昨夜のうちに、要る荷物、要らない荷物に分けたので、要らない荷物は宅急便で仙台に送っておこう。
 宇都宮駅前で記念撮影をした後、駅近くのセブンイレブンから宅急便を発送。これで身軽になった。
 少々走ると111キロポスト、自転車を置いて記念撮影する。111キロポストを過ぎると工業団地のようなところに入り、ここで国道4号のバイパスと合流。昨日の越谷で分かれた道である。ここから北は、国道4号は1本だけになる。
 コンビニでおにぎりを買い、朝食とする。雨が降ってきた。河内町から鬼怒川を渡り、高根沢町に入った。並行する東北本線の橋を快速「フェアウェイ」が通過していった。
 氏家町に入る。東北本線と併走し、今度は「北斗星」とすれ違った。写真を撮りたいが、カメラを出す暇もない。氏家駅前の地下歩道に着く。なんのことはない地下歩道だが、ここには思い出がある。1995年8月1日、この日、福島から小山に向けて自転車で走っていた。大学に入って最初の夏、友人と二人で自転車で東京に向かっていたのである。ちょうどこのあたりで夕立に遭い、避難したのがこの地下歩道なのである。あれから8年、地下歩道は変わらずそこにあった。今日も不安定な天気である。懐かしくなり撮影する。
 雨はやみ、蒸し暑くなってきた。
 矢板市に入った付近は4車線化のための工事中であった。矢板IC、8年前の自転車旅行の際はこのあたりが工事中で対面通行だった。車に混じって50キロ弱で必死で走り抜けた記憶がある。時刻は正午を過ぎた。まだ栃木県である。鉄道でもそうだが、宇都宮〜黒磯は、短いようで長い。
 12時50分頃、西那須野町内の150キロポストを通過。近くのガードレールにカメラを置いて、セルフタイマーで記念撮影する。あとで出来上がった写真を見ると、かなりばてた顔をしている。
 黒磯市に入る。東北本線は、黒磯まで直流電化、黒磯以北は交流電化である。そのため、上野からきた電車は、一番北まで来ても黒磯止まりで、黒磯から北は仙台電車区の電車が走る。そのためか、黒磯を超えると、東北に来た感じがする。もっとも今日の場合、「まだ関東か…」という気持ちの方が強いが。
 黒磯市に入ると、右手にブリジストンの大きな工場があった。あまりに広大な敷地なので印象に残っていたのだが、1ヶ月ちょっとして、この工場で火災があり、新聞でも大々的に報道されたので驚いた。
 母からメールがある。「あぶないですよ。とどまる勇気」…どこかの下手な交通標語かと思った。何を言いたいのか分からない。いや、自転車旅行をやめろと言いたいのだろうが、下手くそな標語で神経を逆撫でするような行為、良識を疑う。イライラして余計に事故に遭いそうである。昨日の誤報といい、ろくなことはしない。
 新幹線の下をくぐり東北本線の上を越えると那須塩原駅。まだ栃木県である。
 黒磯市から那須町へ。関東最後の市町村である。いよいよ那須越えである。道は登りになるが、地図を見ると県境まではまだ10キロ以上ある。地図から目をそむけたくなる。
 14時半過ぎ、約30分かけて、ようやく那須町の中心部付近にたどり着いた。とは言ってもまだ県境までは推定7キロほどある。久々のコンビニで休憩。おにぎりを食べ、冷たい飲み物を飲む。1995年に逆方向に走行しているが、那須越えが辛いと感じた記憶は無い。当時は若かったのか、福島県側の登りがゆるやかなのか、今日はかなり苦労している。
 東北道の那須高原SAを左に見ながら登る。15時半頃、県境を通過し東北地方、福島県西郷村に入る。関東、東北を隔てていたのは黒川という小さな川だった。白河IC(所在地は西郷村)の前のローソンで飲み物を買って、坂を一気に下る。自転車の場合、登り坂は後の下り坂が楽しみで登っているようなものである。
 坂を駆け下り、白河市へ。再び東北本線と併走するが、黒磯以南のような長編成の列車ではなく、たった2両のワンマン列車だ。
 国道289号と新幹線の下をくぐる。坂を登るときはばてていたが、下りで飛ばすと体力と気力が回復してくる。足の痛みも治まってきて、快調に飛ばす。今日の目的地は福島市である。那須越えをしていた頃は、とてもとても福島まで行くのは無理なので、郡山で打ち切りもやむなしと思っていた。しかし福島県に入り、ペースは上がってきている。このまま福島市まで行くのも可能かもしれない。
 泉崎町のはずれのセブンイレブンの前で東京から200キロポスト。しかしすでに時刻は17時になろうとしている。福島市が大体東京から260キロである。今回の自転車旅行は、時速10キロペースだから、この調子で行くと23時、好調な時でも時速17キロペースだから、それでも20時半頃の到着になってしまう。福島からの足を考えると、帰宅が不可能になる。今日は郡山で諦めざるを得ないと思い出した。
 須賀川の市街地に入り、快調に飛ばしていると、後部車輪からシュッシュッという音がしだした。走っているとタイヤから受ける感触がゴツゴツとした感触に変わってくる。自転車を止め、タイヤを確認してみると、案の定、パンク。ちょっとした金属の破片を踏んだだけなのだが、それが後部タイヤに刺さり、見事にパンクしている。実は、後部タイヤはすでにすり減って溝がほとんど無い状態になっていた。交換するかどうかの微妙なレベルだったので、350キロ走って仙台に着いたら交換というつもりでいたのだが、仙台までもたなかった。ここまで快調に走ってきたのだが、とりあえずストップする。
 幸運なことに市街地の、それも須賀川市のほぼ中心部だった。これが那須越えの途中であったらお手上げ状態だっただろう。工具類は今朝の荷物リストラで仙台に送り返してしまい、ほとんど無い。
 少し歩くとカワチ薬品があった。とりあえず自転車屋を捜さねばならない。見知らぬ土地で道を聞く相手はオマワリサンに限る。ということで、カワチの前の公衆電話から須賀川警察署に電話。現在位置と自転車屋を教えて欲しい旨を述べると、調べるから5分ほどしてからかけ直して欲しいと言われる。カワチで飲み物を買い、前のベンチで休んだ後、もう一度電話をかける。すると、すぐ近くにビバホーム(ホームセンター)があるとのこと。さすがオマワリサンである。
 国道4号から150メートルほどはずれたところに、ビバホームがあった。パンク修理をお願いする。やはりタイヤは交換とのことで、修理には30分ほどかかるという。本日の郡山打ち切りはほぼ確定した。
 修理を待つ間、祖父に電話したり、郡山駅付近の駐輪場の場所を聞いたり(これまたオマワリサンに電話)する。ビバホームに戻ると、自転車屋さんが手押し式の空気入れで空気を入れている。横にはコンプレッサーがあるのに何故使わないのかと聞くと、なんとフレンチバルブに対応していないとのこと。チューブのバルブの口が合わないのである。アダプターは持っていたので見かねて、
「アダプターありますよ。」
と言ったのだが、
「大丈夫です。」
と言って、手動の空気入れで頑張っている。空気を入れて、水の中にチューブを入れてパンクの場所を捜して…繰り返しているうちに、ついに耐えられなくなったらしい。
「アダプター貸してください。」
 結局、アダプターを借りたとか、クイックレバーだったから楽だったとか、タイヤの色が同じものが無かったとか、色々な理由で、3000円ほどにまけてくれた。19時少し前、走行再開。ライトを点けて、郡山へ向けて最後の力走をする。
 須賀川市のはずれで、国道4号は2つに分かれる。あさか野バイパスとの分岐点である。今日は郡山市で終わりなので、市街地を通る旧道へ向かう。
 東京起点222キロポスト、今日の最後のキリ番キロポストであるが、キロポストが見あたらない。222.1キロポストまで行って、メーターで測りながらきっかり100メートル戻っても無い。ちょうどデニーズの駐車場入口あたりなので、邪魔なので撤去されたのかもしれない。仕方が無いので、逆車線に渡り、「東京まで222キロ」ポストを撮影する。
 20時少し前、無事郡山駅に到着。教えてもらった自転車置き場は、しっかりとした建物の中にあった。ここなら雨風の心配も無く安心だ。入口の人に1週間停めたい旨言うと、とりあえず、一日分払って停めて、出るときに精算してくれとのこと。駐輪料金は1日50円。仙台と同価格である。仙台のように地下だったり、郡山のように屋内なのに1日50円は良心的である。というより、野ざらしの土地を駐輪場と主張して1日150円も取る大阪市や100円取る堺市がぼったくり価格なのかもしれない。仙台市には12枚1000円の回数券があるが、郡山市には無かった。
 自転車を置き、空気入れやその他の備品を取り外し、駅に向かう。すでに高速バスは無く、JRで帰るしかない。時刻表を調べると、20時14分の福島行きがあるが、福島から先の接続が悪い。20時10分の「Maxやまびこ203号」があったので、みどりの窓口に駆け込む。
「間に合うんですか?」
と言う駅員をせかし、切符を購入し、なんとか駆け込み乗車で間に合った。
 
 福島で在来線に乗り換えてお金を節約。
 自宅へ着いたが、地震の被害など全く無い。適当に積み上げておいた物も一つも崩れていなかった。慌てて戻ったらバカを見るところだった。

  <実況中継>

(03/07/27 07:21:55 栃木県宇都宮市)  おはようございます。 宅急便で荷物を4kgほど削減して出発です。
(03/07/27 08:10:54 栃木県河内町)  何故か雨が降ってきた
(03/07/27 08:32:19 栃木県高根沢町)  高根沢町です。 鬼怒川を渡っている快速「フェアウェイ」を見ました。
(03/07/27 09:50:14 栃木県氏家町)  今度は日が出てきた。ばてる。
(03/07/27 12:04:49 栃木県矢板市)  かなりばてています。 本日の予定の完遂は難しそうです。
(03/07/27 12:23:28 栃木県大田原市)  ほとんど苦行状態です
(03/07/27 12:56:16 栃木県西那須野町)  スピードが上がらない。
(03/07/27 13:42:48 栃木県黒磯市)  応援以外の内容のメールは受け付けておりません。
(03/07/27 14:39:07 栃木県那須町)  大変遅くなりましたが、今から那須越えです。
(03/07/27 15:52:11 福島県白河市)  ようやく福島県側に降りてきました。 しばらく下りだと嬉しいな。
(03/07/27 16:37:23 福島県泉崎村)  足の痛みが取れて、調子が上がってきました。
(03/07/27 17:05:35 福島県矢吹町)  本日は郡山で打ち切りとします。
(03/07/27 17:26:59 福島県鏡石町)  今回の旅で初めて福島交通バスを見ました。
(03/07/27 17:52:39)  須賀川市内。 パンク発生。
(03/07/27 18:01:29 福島県須賀川市)  自転車パンクのため、しばらく停止します。
(03/07/27 18:53:15 福島県須賀川市)  修理完了。 タイヤも裂けていたので交換しました。 那須越え中だったらと思うと。
(03/07/27 20:12:14 福島県郡山市)  駐輪場に止め、新幹線に駆け込み乗車
(03/07/27 23:50:18)  報告:自宅に戻りましたが、地震の被害は無いようです。