所有せざる人々 ISBN4-15-010674-6 アーシュラ K ル グィン著 早川書房 680円
資本主義下の下層階級民は、月の女神オドーの理想郷を見上げて、来世の平等と幸福を語り合ったという。それが例え酷く貧しい世界だとしても、「所有」の鎖から解き放たれることを夢見て祈ったという。
「所有欲」というのは、本当に人間の根本的な欲求だっただろうか? 倹約を道徳善としながら、その実は浪費を誘導しないと拡大出来ない資本主義社会。「所有しない」という欲求からは、果たして社会を構成できるのだろうか?
本書は貨幣経済の根本原理たる「所有」について扱ったSFである。SFというと軽いイメージがあるが、本書はさながら哲学書の様であり、冷戦の時代にアメリカの作家が書いたものとしては信じられないほどの出来といえよう。共産主義が崩壊した今となっては、崩壊するのが必然的だったと語る書物が多いが、崩壊の遥か以前に、両経済体制の問題点を雄弁に語る本書は、人間という存在の、ある種の論理的限界を示しているに違いない。社会とは何であるか? 経済は何故あるのか? 人間は如何に生きるべきか?さまよう主人公の想いが、天空の二重星にこだますようである。(城)
