食堂車つれづれ草
気が付けば日本の鉄道界から食堂車はほとんど無くなっていた。かつてはほとんどの優等列車に食堂車がついていた。特急はおろか急行にも。国鉄末期、あれよあれよという間に食堂車は減って行った。東北新幹線の開業により、「はつかり」「やまびこ」「ひばり」など、食堂車連結列車が消えた。新形式が出来たもののそれに食堂車が作られなかったことも食堂車の衰退に拍車をかけた。181系ディーゼルカーの食堂車、キサシ180は「やくも」電車化により姿を消した。80系ディーゼルカーのキシ80はかなり遅くまで残っていたが、営業自体は「おおとり」「オホーツク」の183系化で消えていた。電車の方はサシ481とサシ581が「雷鳥」で営業を続けていた。が、これも国鉄最後の改正で姿を消した。JRという新体制を迎えたとき、食堂車が残っているのは、東海道新幹線「ひかり」と東海道−九州ブルートレインだけだった。それでも数分ごとに発車する「ひかり」全列車に食堂車があるのは当たり前、東京駅に夕方行けば、「さくら」「はやぶさ」「富士」「みずほ」「あさかぜ1号」「出雲1号」「出雲3号」が次々と食堂車付きで発車していくのもこれまた当たり前だった。逆に100系新幹線電車にビュフェがない方が不思議だった。
JR化後、食堂車にわずかに明るい話題があったとすれば、「北斗星」と「グランドひかり」だろう。しかし全体から見れば食堂車は確実に減っていた。JR東海に増備された100系新幹線電車は好景気の波を受け、二階建て2両ともがグリーン車となり、食堂車は消えた。続いて登場した「のぞみ」用300系にも食堂車の姿は無かった。ブルートレインの方を見ても、一時は「トワイライトエクスプレス」に食堂車が付き、まだまだ生き残るかに見えたが、「出雲」と「みずほ」の食堂車が営業停止、続いて東海道−九州ブルトレすべてが営業停止、瞬く間に食堂車は編成から外され、かつては「エサ無し」と揶揄された、食堂車も車販もない夜行列車がごく当たり前のように走る世の中になってしまった。新幹線も100系化、300系化で次々と食堂車営業列車が減り、かつて「帝国ホテル」「都ホテル」のホテル勢と「日本食堂」「ビュフェ東京」が激しく火花を散らしたのも昔話になってしまった。食堂車が消えていく中で、ひっそりと「こだま」のビュフェ、カフェテリアも営業を停止した。
昼間の列車から食堂車が消える=気軽に車窓を見ながら食事という雰囲気が二度と味わえなくなると感じて、最後の食堂車になるであろう、「グランドひかり」の食堂車へ向かった。高級料理が消えてしまったものの、220km/hで過ぎ去る景色を見ての食事は最高である。食事時には早すぎたが、客は次々現れ、人が絶えることは無かった。すべての列車とは言わずとも、1時間に1本くらいは食堂車を付けて欲しい気はする。
そんな食堂車にも少し明るい話題はある。JR九州の看板列車「つばめ」に、食堂車ではないものの、サハシ787というビュフェ車が付いたことだ。実際九州に行った際に乗ったが、立ち食いではあるものの、流れゆく車窓を見ながら暖かいものを食べるのは旅を感じさせ、看板列車にふさわしいと感じた。またJR東日本の新形客車「カシオペア」には、在来線初の二階建て食堂車が登場した。1編成のみであり、ジョイフルトレイン的要素が強いが、日によっては臨時の「北斗星」も含めて4本もの列車が食堂車を営業して東北路を走るのは嬉しい。末永く活躍して欲しいと祈るのみである。
食堂車復権のためには、好景気になり日本人が旅を楽しむことができるようになることが一番であろう。しかし景気の回復を待つ以外にも、食堂車の復権はあり得ると思う。列車内の食事の傾向を見てみると、「北斗星」「トワイライトエクスプレス」「カシオペア」に見られるように、要予約で数千円もする豪華なディナーへの方向と、車内販売のサンドイッチに見られる安価な方向に分極化していっているのに気づく。車内だけではなく、一般の食事も、いわゆるグルメとコンビニ食のように二極化している。つまりこだわる人は徹底的にこだわる、こだわらないなら安いに超したことはない。これが最近の動きである。この中で見れば、千円前後して大して美味くもない食堂車が衰退するのは仕方がない。予約無しで乗ることの多い昼行列車の食堂車が、おいしさを追求するのは無理があるし、ホテルのレストランと対抗しても無駄であろう。逆に安さと入りやすさを追求するのが、食堂車生き残りの最後の手段だろう。
私は食堂車営業会社としてぜひ参加して欲しい会社がある。それはマクドナルドである。マクドナルドは安さと入りやすさを極限まで追求した食堂である。この不景気でも、食事時になればマクドナルドは客でごった返している。食堂車という舞台でも安さと入りやすさを極限まで追求し、果たして食堂車という文化自体が存在不要なのか、それともただ食堂車の運営の仕方が悪いだけなのか証明して欲しい。これが私の要望であり、これをやってくれる会社としてはマクドナルドしかないだろうというのが、私の出した結論なのである。もちろんマクドナルドが入った食堂車は、今までの食堂車と雰囲気が違ったものになるだろう。だが、食堂車という文化を残すためには、変わらざるを得ない部分ではないか。